政府は、東京、京都、大阪、兵庫4都府県に発令していた新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を20日間延長し、対象に愛知、福岡両県を追加することを決めた。

 短期集中で大型連休の人の流れを抑えるとして宣言発令時は期間を17日間に限定していた。菅義偉首相は「人流は間違いなく減少した」と胸を張るが、ならばなぜ新規感染者数が高止まりし延長に追い込まれたのか。状況判断が甘かったと指摘されても仕方あるまい。

 政府は延長後、百貨店など大型商業施設への休業要請はせず、原則無観客だった大規模イベントも5千人を上限に入場を認める。宣言を延長するのに対策の内容は緩める。これでは中途半端の感が否めず「対策小出し」に陥らないか。緩和を見送る東京、大阪の判断の方がむしろ理にかなう。

 日本百貨店協会が政府に営業拡大を強く要望していた。一方、小規模経営が多い酒類を提供する飲食店には今後も休業要請が続く。公平性は保てるのか。菅首相には判断の理由、狙いを丁寧に説明する責任があることは言うまでもない。

 「第4波」の主因は感染力が強い変異ウイルスだ。変異株対策が甘いまま2度目の緊急事態宣言を3月1日に大阪、兵庫、京都など6府県、同22日に東京など首都圏4都県で解除したことが、結果的に感染再拡大につながったとみるべきだ。

 特に神戸市は2月末、変異株が感染者の半数に及ぶ可能性が指摘され、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も変異株を理由に宣言解除は「もろ手を挙げて賛成ではない」と表明。だが首相は宣言解除を急ぎ結局3度目発令となった責任を国会で問われ「大阪、兵庫の変異株は当時出ていなかった」と釈明した。看過できない認識不足だ。これでは判断を誤って当然。首相には事態を的確に把握するよう猛省を促したい。

 2度目の全面解除から3度目発令まで約1カ月しかなかったことで医療提供体制強化も追いつかなかった。中でも大阪府では、確保した重症者用病床では足りず、重症者が中等症病床、他の病気の重症病床、さらには府外の滋賀県で治療を受けている。関西に比べればまだ病床に余裕がある東京も変異株割合が急増している。病床逼迫(ひっぱく)への備えを早急に固めたい。

 経済への影響も心配だ。第一生命経済研究所の試算では、延長前後を合わせ国内総生産(GDP)は8014億円減少し3カ月後に失業者が4・5万人増えるという。政府は2021年度予算の予備費から5千億円を支出するが、自治体とも連携して各種事業者への機動的な支援策をさらに工夫してほしい。

 企業が休業者に支払う手当の一部を補〓(ほてん)する雇用調整助成金を拡充した特例措置は5月から段階的に縮小されるが、今後の雇用情勢悪化に向けて縮小見直しも必要だ。

 東京五輪開幕まで2カ月半。医療従事者はコロナ患者治療、ワクチン接種、パラリンピックを含め延べ1万人の医療スタッフが必要になる五輪対応―と三重苦を迫られる。国際オリンピック委員会(IOC)は各国選手団にワクチンを無償提供するが、高齢者への接種も難航する中、ワクチンや医療従事者を五輪へ優先配分することに真の大義はあるのか。宣言延長を機に「コロナ下の五輪」の在り方も見直したい。