ボリューム満点の「あなご天丼」=大田市五十猛町、海の店ささき
ボリューム満点の「あなご天丼」=大田市五十猛町、海の店ささき

 <海鰻(うなぎ)とも書くが、鰻よりさっぱりとしていて、よろしい>。そんな穴子が作家山口瞳さんの大好物だった。訪れた兵庫県赤穂市で白焼きや丼を朝も夜もかき込み、<市内はどこへ行っても穴子を焼く匂いがしていた。リヤカーで売りにくる魚屋も目についた>と紀行文『迷惑旅行』に書いている▼それから40年以上たち、赤穂しかり、広島の宮島しかり、瀬戸内海の名産は漁獲量が著しく減少しているそうだ。原因は内湾の貧栄養化とも、温暖化による海水温の変化とも。対して日本海の漁獲は比較的安定し、全国屈指の水揚げがある島根県で「大田の大あなご」が盛り上がっていると昨日の本紙にあった▼山口さんが好んだ淡泊なさっぱりとした味わいを求めるなら「梅雨穴子」と呼ばれる旬の夏がお薦めだが、10~12月ごろは脂が最も乗ってうま味が増す。大田市内の提供店一覧のパンフレットに掲載された料理写真を眺めるだけで、おいしそうな匂いが漂ってきそう▼大田商工会議所などがブランド化の取り組みを始めた当初、扱いにくさもあってだろうか「長ものはちょっと…」と、難色を示した飲食店もあったと聞く。本来は「長い食べ物」は縁をつなぎ引き寄せるといわれ、穴子は永続や長寿の象徴とされる▼年末年始の縁起担ぎに、肉厚で濃厚な身を思いっきり頬張るのもいい。運気も「海鰻(あなご)上り」の一年になりますようにと願いながら。(史)