「開いた口がふさがらない」とはこのことだろう。倉吉市が今春統合する成徳小学校と灘手小学校の新校名問題である。
紆余(うよ)曲折の末、地域代表や保護者らでつくる学校統合準備委員会が導き出した「打吹至誠」で決着するかと思いきや、17日の市議会臨時会で、反対する議員の修正動議が提出され、準備委の候補に挙がっていなかった「成徳」に決まってしまった。
準備委の協議を無にするような議会の〝ちゃぶ台返し〟に、委員や地元住民から「これまでの協議は何だったのか」「両校の児童に説明できるのか」といった批判が出るのは当然だ。
ケチのつき始めは、2022年6月の準備委の校名決定だった。児童数減少を受け、成徳、灘手、明倫の3小学校の統合が各地区代表によって合意されたのが21年3月。その後、先行して成徳と灘手を23年度に統合することを決め、21年8月に準備委が発足。新校名を公募し、寄せられた341件(119案)を基に、準備委が「この上ない誠実さ、まごころ」という意味を持つ「至誠」に決めた。
ところがその後、地名を取った「打吹」が最多の150件を集め、「至誠」は1件だけだったことが判明した。「わずか1件の至誠が採用されたのは納得できない」と選定のやり直しを求める市民団体の直接請求を受け、「至誠」は白紙、差し戻しとなり、準備委が再検討。「打吹」を推す灘手、「至誠」を推す成徳の両地区委員の思いをくむ形で「打吹至誠」を導き出した。いわば妥協の産物である。
ただ、その結論を否定した市議会の「成徳」も、今春の統合に間に合わせるための妥協の産物のようだ。提案した藤井隆弘議員は、多くの市民が「打吹至誠」に納得していないと指摘。統合後、既存の成徳小の校舎を使うことから、「成徳」とすることで児童、保護者の不安などが最小限に抑えられるとした。将来的な明倫小との統合計画も想定し、3校がある地元の住民らで改めて校名を協議、検討することが適切とも述べた。
一見合理的な判断に映るが、問題解決を明倫小と再統合する際に先延ばししたに過ぎず、今回の対立や混乱は後を引くだろう。そもそも準備委の検討過程では両校の「対等合併」を示すため、既存の校名は使用しないことにしており、準備委の努力を踏みにじる決定と言える。
ここまで混乱した一因は、市議会の決定に「正直、驚いている」と語った広田一恭市長にもあるだろう。小学校の統合は教育委員会の所管ではあるが、積極的に関与し、リーダーシップを発揮すれば、混乱を少しでも抑えることができたはずだ。
一番の被害者は、大人の都合に振り回される成徳、灘手両小の児童である。至誠↓打吹至誠↓成徳。ころころと変わる校名に、不安を抱いている子どもも多いだろう。今回の決定をどう説明するのか。本来なら、新たな小学校の主役である両校児童に、校名を投票で決めてもらうくらいの度量が欲しかった。
大相撲初場所で注目を集める19歳の落合(宮城野部屋)は成徳小出身だ。鳥取城北高で高校横綱に2度も輝き、昨年9月の全日本実業団選手権も制した大器は、幕下15枚目格付け出しでデビューした今場所で6連勝。もう1勝すれば、史上初の所要1場所での十両昇進が確実視されている。そんな地元の盛り上がりに水を差すほど、今回の校名問題は後味の悪さが残る。