岸田文雄首相の施政方針演説に対する代表質問と決算審議で衆参両院の論戦がスタートした。野党は国会閉会中に防衛費大幅増、次世代型原発への建て替え方針など重要政策を相次ぎ決定した首相を「乱暴だ」と批判。首相は「問題ない」として正面から答えなかった。国会は首相の「決断」の事後報告を聞くだけの場ではない。国民の代表である議員の幅広い意見を政治に生かすのが国会のはずだ。
首相は先の演説で「決断した政府方針について国会で正々堂々の議論をし実行に移す」と訴えた。「決定済み」ではなく議論の結果、野党に理があれば修正にも応じるような姿勢で臨み実りある国会にしてほしい。
政府は昨年12月、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定し防衛力強化へ踏み出した。反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有。2027年度に国内総生産(GDP)比2%の防衛費を実現し、約4兆円の追加財源のうち約1兆円は増税で賄う―。これらは平和憲法の専守防衛の原則を踏み越える「大転換」だ。
岸田政権は21年秋の発足直後から政府与党でこれらの検討を進めてきた。首相は「議院内閣制では政権与党が国政を預かっている」と答弁。政府与党で方針を決めた後に国会や国民に説明する手続きが妥当と主張した。原則的には正しい。しかし首相はこの間、水面下の検討に気をもむ国会や国民にどう向き合ってきたか。その姿勢に問題があったと指摘したい。
安保3文書決定の直前まで、国会で野党が何度聞いても首相は「あらゆる選択肢を排除せず年末までに結論を出す」と「検討中」を盾に議論に応じなかった。21年秋の衆院選、22年夏の参院選と2度も国政選挙に臨みながら、防衛力強化のため増税まで求めることに国民の信は問わなかった。
首相が年初に訪米しバイデン大統領に決定内容を伝えたことを野党が「順序が逆だ」とただしたのも当然だ。首相の「日本の現状を説明した」は全く釈明になっていない。「戦後最も厳しい安保環境に直面している。防衛力強化はシーレーン(海上交通路)確保に資する」も反撃能力保有、防衛費倍増まで進める理由には到底足りない。
原発政策の転換も全く同じ道をたどってきた。次世代革新炉への建て替えや、原発運転期間の60年超への延長を政府は国会閉会中の昨年8月に表明。首相はそれまで「現時点で想定していない」と言い続け、直前の参院選の公約にもなかった。
野党は「国会にも諮らない原発依存回帰は到底認められない」と厳しく追及。これに対して首相は、ロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー危機を強調しつつ、またもや「政府与党で1年以上議論し、進め方に問題はない。国会論戦を通じて国民へ説明する」と防衛費問題と同じ答弁を繰り返した。説明を尽くし理解を得たいという誠実な姿勢に欠ける。
ほかにも首相は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」に引き下げる方針も閉会中に決定。自ら約束した「子ども予算倍増」の財源確保策については、国会が閉じる今夏まで決着を先送りした。いずれも野党の追及をかわしたい「国会迂回(うかい)」と取られても仕方あるまい。今後の予算委員会審議では、国民が納得できる、中身がある論戦を求めたい。