「1票の格差」訴訟の最高裁判決を受け、合憲の結果を伝える原告側弁護士グループ。中央は升永英俊弁護士=25日午後、東京都千代田区
「1票の格差」訴訟の最高裁判決を受け、合憲の結果を伝える原告側弁護士グループ。中央は升永英俊弁護士=25日午後、東京都千代田区

 格差は前回より広がったが、国会による是正の「頑張り」は認められる。司法はそう判断して「合格点」を付けた。しかし、依然として「完全な平等」にはほど遠い。

 「1票の格差」が最大2・08倍だった2021年衆院選が、投票価値の平等を求める憲法に反するかが争われた訴訟の判決で、最高裁大法廷は「合憲」判断を示した。

 同じく「合憲」だった前回17年衆院選の1・98倍より拡大、2倍を超えたが、人口増加地域の選挙区数を増やし、減少地域で減らす「10増10減」の改正公選法が昨年末に施行され、次の総選挙での是正が予定されていることなどを評価した。

 とはいえ、是正後の格差は1・999倍と限りなく2倍に近い。人口の都市集中が続く限り、新しい区割り制度でも地方の選挙区が減っていくことは避けられない。国勢調査のたびに定数配分などを改定するのは煩雑で、有権者の混乱も招きかねない。

 国会は「合憲」に安穏としてはならない。一定の制度的手当てができた今こそ、導入から四半世紀を経た小選挙区比例代表並立制の適否を検証し、選挙制度の抜本的な改革議論を始めるべきだ。

 「10増10減」は都道府県の人口比を反映しやすい「アダムズ方式」に基づく議席配分だ。国会が16~17年の選挙制度改革で、20年国勢調査の結果から変更することを決めた。

 大法廷判決は合理性を認め「拡大した格差はこの制度の枠組みで是正が予定されている」と判断。「本件選挙の格差は憲法に反する状態に至っていたと言うことはできない」とした。

 一審に当たる高裁段階では「違憲状態」7件、「合憲」9件と判断が割れたが、大法廷判決は裁判官15人中14人の圧倒的多数意見だった。残る1人は「違憲」としたが、前回衆院選の大法廷判決で4人が「違憲」「違憲状態」としたのとは対照的だ。

 衆院の「1票の格差」問題は、半世紀にわたって訴訟が繰り返されてきた。最高裁は当初は、著しい格差の有無を中心に判断してきたが、09年衆院選以降はそれにとどまらず、積極的に格差是正を促す判決を出すように変化した。

 格差2・30倍だった09年衆院選を「違憲状態」とし、全都道府県に1議席ずつを自動的に配分する「1人別枠方式」を「格差を生む主因。速やかに廃止する必要がある」と初めて指摘した。

 これを受けて国会は「1人別枠方式」の規定を削除したが、同方式に基づく定数配分は残り続け、最高裁は12年、14年衆院選とさらに続けて「違憲状態」とし、是正を迫った。

 こうした経緯を振り返ると、09年衆院選以降は立法と司法が、1票の格差是正策のキャッチボールを続けたと言える。この結果、取りあえず継続的に是正が可能な制度にたどり着いたことは、一定の評価に値する。

 国権の最高機関に民意を適切に反映する選挙制度は、民主主義の根幹である。数的平等と質的平等の両立を目指すべきだ。

 地方の衆院議員が減少し「国政に過疎地の声が届きにくくなる」との懸念にどうこたえるのか。民意が極端に振れやすい小選挙区比例代表並立制でいいのか。衆参両院の役割分担の在り方を含め、選良の知恵を結集してもらいたい。