鳥取県立美術館で展示されるアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」
鳥取県立美術館で展示されるアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」

 美食家として知られ、幅広い芸術分野で活躍した北大路魯山人(ろさんじん)の著作『料理王国』の中に、随分と昔に山椒魚(さんしょううお)を食した、との項がある。現在は特別天然記念物として保護されているオオサンショウウオのことである▼中国の古書や料理人の体験談を頼りに調理して、スッポンのように煮てみたが、肉は硬くなる一方。それでも辛抱強く煮て、ようやく歯が立つようになったので食べてみると、非常に美味であった。翌日再び食べると、一度冷めた肉はとても軟らかくなっていたという▼2025年春、倉吉市にオープンする鳥取県立美術館で展示されるアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」について所管する県教育委員会を取材し、山椒魚のエピソードを思い出した。担当者いわく「この作品が一つあるだけで、七つくらいの展覧会がすぐにできます」▼展覧会のテーマとして挙げたのは、ポップ・アート界での位置付け、ウォーホルの変遷、せっけんの箱がなぜ美術になったのか、日用品と美術の関係性-など。「作品は文脈の中で意味が生まれる。その文脈を作るのが美術館の仕事」。そう語る姿は、生きのいい食材を前に腕まくりする料理人のようでもあった▼一筋縄ではいかず、物議を醸すゲテモノのようでありながら、調理次第では美味に仕上がる。開館まで2年間。じっくり煮られた末、どんな形で「ブリロの箱」が姿を現すのか楽しみだ。(直)