「監督が怒ってはいけない大会」。そんなユニークな小学生バレーボール大会が先月末、福岡市で開かれた。ルールは大会名通り。映像で様子を見たところ、選手の表情は明るく、ミスを叱った監督は「×」印の付いたマスクを着用させられていた▼企画したのは、元バレーボール女子日本代表の益子直美さん。指導方法を見直すきっかけにしてもらおうと8年前に始め、全国に広がった。「怒りがなくても勝利と育成の両方が手に入る方法はあるはず。怒らないと緊張感がつくれない、動かせない、やらせられない、という時代は終わった」と益子さん。叱責(しっせき)ばかりの指導でバレー嫌いになった現役時代の経験が原点にあるという▼暴力・パワハラの根絶を誓うスポーツ界だが、いまだに変われない指導者は多い。「おまえは頭が悪い」「使えない」など、心に傷を負わせる言葉の〝陰湿化〟も指摘される▼大会で印象的だったのはマスクを渡された監督が「怒ってないですよ!」と驚いた場面。明らかに威圧的だった本人に自覚はなく、問題の根深さを垣間見た。専門家によると、行き過ぎた情熱は、本来、引き出すはずの相手の情熱を消してしまうそうだ▼「私は無関係だ」と思うなかれ。家庭や職場でも同じように、相手が思うように動かないからと、上から押し付け、萎縮させてはいないだろうか。どの世界でも自分流が最善との過信は禁物だ。(文)