新型コロナウイルス禍で在宅勤務を経験した人からこんな感想をよく聞いた。「オンとオフの切り替えがしづらい」。確かに在宅では仕事と私生活の区別がつきにくく効率は低下しがち。めりはりが欠かせない▼さてこの人のオンとオフのめりはりはどうだったか。性的少数者や同性婚を巡り記者団に「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と差別発言をし、首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏。広報を担当し、首相のスポークスマン的な役割を担っていただけに、影響力を考えれば更迭は当然だろう▼気になるのは、差別発言が実名での引用を前提としないオフレコ(オフ・ザ・レコード)取材の場で出たこと。政権運営や政策決定の背景などを把握するため、政府高官らに行う取材手法で、本音が出やすい▼ところが、この発言を問題視した大手紙が、荒井氏に実名で報道すると通告した上で記事をニュースサイトに掲載。各社が一斉に追いかけた。取材対象との約束を破り、オフからオンレコへの切り替え。安易に是非を論じることはできない▼もう一つ気になるのが発言が荒井氏の本心だったかということ。同性婚の法制化を巡り、岸田文雄首相は1日の衆院予算委員会で「社会が変わってしまう課題だ」と慎重な姿勢を示した。首相を擁護するために、荒井氏が極端な発言に走ったとも考えられる。そうだとすれば、めりはりが利き過ぎたか。(健)