形のいいのを二つ三つ串に刺し、サラダ油につけてから、きつね色になるまで網で焼き、甘い味噌(みそ)を添える「蕗(ふき)の薹(とう)のあみ焼き」。硬いままをハサミで四角く切り、からりと揚げる「昆布の素揚げ」。この二つを早速試してみようと思う▼図書館で借りた作家・故水上勉さんの随筆『土を喰(くら)ふ日々』に出てくる食べ方だ。副題は「わが精進十二ヶ月」。少年時代に禅寺で精進料理を覚えた水上さんが45年前、軽井沢(長野県)の山荘で畑を作り自ら手がけた料理が月ごとに紹介してある。初版本はその年だが後に文庫本にもなり、昨年は沢田研二さん主演で映画化された▼精進料理のバイブルとされる道元の『典座(てんぞ)教訓』の教えも交えてあり、食材や料理との向き合い方を考えさせられる内容。例えば洗いにくい、ほうれん草の根元は「土から出てきた一草一根には平等の価値がある」と捨てずに使うよう諭す▼さらに、おろしにしたら独特の辛さがあった出来の悪い大根も「尊重して生かせば、食膳の隅でぴかりと光る役割がある。それをひき出すのが料理というもの」と。教育にも通じる考え方だろう▼長引いた寒波が一段落。きのうは暦の上では「立春」だった。「旬を喰うこととは土を喰うこと」。そう書いた水上さんにとっても、春は格別だったに違いない。木や草が一斉に芽吹く様子を「土のうたをきく」と表現していた。その日が待ち遠しい。(己)