多くの市民らが駆け付けた「ばけばけ」のパブリックビューイング∥9月29日、松江市朝日町の松江テルサ
多くの市民らが駆け付けた「ばけばけ」のパブリックビューイング∥9月29日、松江市朝日町の松江テルサ

 連続ドラマ『ばけばけ』の初回放送を、松江市で開かれたパブリックビューイングで観賞した。ドラマの中、小日向文世さん演じる松江藩の没落士族の恨み言に、当時の日本人の心情がにじんでいた。「もとはと言えば、ペリーが黒船で来たから(明治維新が起き)こげな時代になった」と。

 幕末、内乱状態の日本を取り巻く世界には帝国主義が吹き荒れていた。領土拡張を競う欧米列強が混乱に乗じて日本を植民地にしてもおかしくはなかったが、偶然が重なって日本は助かったという説がある。

 安土桃山時代、石見銀山(現在の大田市)の銀を求めて外国商人が日本を目指した。やがて銀は掘り尽くされ、これといった輸出品のない江戸時代の日本は世界から見放されていた。

 そこに現れたのが、中国貿易に目を付けたアメリカだ。太平洋航路の中継地として日本に着目し、1853年にペリー艦隊が浦賀に来航。たった数隻で幕府は大混乱し、近代国家への脱皮が始まった。

 その時、他国が押し寄せなかったのが「歴史の綾(あや)」。同年にクリミア(現ウクライナ)の戦争が勃発。アメリカでも61年に南北戦争が始まり、欧米列強はそれどころではなくなった。もし石見銀山が掘り尽くされなかったら、もしクリミア戦争がなかったらと思うと背筋が寒くなる。小泉八雲は古き日本に怪談を見いだしたが、歴史の「もし」の中には書かれなかった怪談が潜んでいる。(裕)