高橋是清
高橋是清

 国の2023年度予算案の衆議院審議が大詰めを迎えている。今後5年間で総額43兆円に上る防衛費増額のさわりの部分を含むものの、増税が焦点の財源に関わる政府方針の決定が事実上先送りとなっていることもあり、まだ盛り上がりを見せていない。腰を落ち着け、連日このテーマだけで審議してほしい▼119年前、1904年の日露戦争の頃、戦費調達のために英米の銀行家をはじめとした財界要人に、外国債券の引き受けを依頼した当時の日銀副総裁・高橋是清(後に日銀総裁、蔵相、首相、1854~1936年)の段取りを思う▼資金の話をする以前に、ロシアを含む欧州列強に比べれば弱小国だった日本の国情の説明に腐心した。本人がしたためた『高橋是清自伝』でも<公債のことは強く迫らず、むしろいろいろ雑談の中に、日本を諒(りょう)解せしむることに努めてをつた>と振り返っている▼時代が変われど、国際情勢の中で国が置かれた状況と生きていく道筋を国民がある程度理解して、初めて増税、国債の引き受けといった資金の話が出てくるのが筋ではないか。つまるところ憲法改正を巡る議論をしないと、これだけ大事な問題は前に進まない▼日露戦争で国の命綱を握る「もう一つの戦い」を完遂した高橋が、1936年の「二・二六事件」で軍部による凶弾の標的になったのは、後世から見ると本人にとって不本意だっただろう。(万)