将棋の第72期王将戦7番勝負の第5局で羽生善治九段(左)を破って初防衛にあと1勝とし、感想戦で対局を振り返る藤井聡太王将=26日午後、大田市三瓶町の国民宿舎さんべ荘(代表撮影)
将棋の第72期王将戦7番勝負の第5局で羽生善治九段(左)を破って初防衛にあと1勝とし、感想戦で対局を振り返る藤井聡太王将=26日午後、大田市三瓶町の国民宿舎さんべ荘(代表撮影)

 大田市三瓶町の国民宿舎さんべ荘であった将棋の王将戦7番勝負第5局は、藤井聡太王将(五冠)が羽生善治九段を破り、防衛へ王手をかけた▼開幕前、将棋を知らない人に両雄激突の意味を大相撲に例えて説明した。「千代の富士-貴花田戦だね」。引退直前の昭和の大横綱千代の富士が、後に改名して平成の大横綱となる貴乃花に敗れた1991年の一番だ。羽生九段を平成、藤井王将を令和の第一人者と位置付け、持ち出した。他分野でも類似例がないかを探したが、意外にない▼3条件がそろわないと成立しない奇跡の一戦なのだ。ある競技で誰もが認める第一人者がいる。次世代にも第一人者もしくは候補者がいる。両雄激突の機会がある-の3点▼まず情報量増大で分析、研究が進み入念に対策が講じられると、昔のように長く主役で居続けられる第一人者が現れにくい。次世代も同じ。その上で2人が出現しても対戦が実現するとは限らない。将棋の中原誠16世名人、羽生九段のタイトル戦は状況的に十分あり得たが、縁がなかった▼第5局の対局会場に行った。序盤に羽生九段が繰り出す小技が粋で、無敵だった全盛期を思い出し感傷に浸った。と、そこへ藤井王将の強手がさく裂し目が覚めた。羽生九段も死力を尽くし応戦。情緒抜きのばちばちの頭脳戦だ。良い例え話だと思っていた千代の富士-貴花田戦とは、似て非なるものだった。(板)