電通本社が入るビル=東京都港区
電通本社が入るビル=東京都港区

 東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件で東京地検特捜部は独禁法違反の罪で広告最大手の電通グループなど6社と、大会組織委員会大会運営局の元次長らを起訴した。組織委元理事や企業トップら15人が起訴された汚職事件と合わせ、一連の捜査は終結。五輪を舞台にした不祥事は、スポーツイベントの在り方に改革を求めている。

 汚職、談合の両事件に深く関わったのが組織委の専任代理店を務めた電通だ。電通元専務で組織委理事だった高橋治之被告が、スポンサー選定を巡る贈収賄事件のキーマンとなった。談合では電通から組織委に出向していた職員も絡み、発注側と受注側の双方に電通が介在する異様な状況で不正が起きた。

 電通は専任代理店に手を挙げた際に協賛金集めの最低保証額として1500億円を超える巨費を提示。代理店に決定後はすぐにノルマをクリアして、最終的には国内で約3700億円ものスポンサー収入を確保した。電通はこの分野での力量を示すとともに、多額の手数料収入を得た。

 商業五輪の先駆けとなった1984年ロサンゼルス五輪に関与後、電通は多くの大会に参画してきた。国内でも91年世界陸上選手権、98年長野冬季五輪、2002年サッカー・ワールドカップ(W杯)、19年ラグビーW杯などで存在感を発揮してきた。

 アマチュアリズムが存続していた1980年代には選手の肖像権を広告利用する手法を日本オリンピック委員会(JOC)に持ち込み、プロ化の流れも促進した。

 ロサンゼルス五輪は黒字決算となり組織委スタッフには大会後にボーナスも出た、という。電通による大会商業化は公費負担を軽減し、やり方次第では「五輪はもうかる」との神話さえ生んだ。広告出演解禁による選手のプロ的な活動は強化資金獲得や選手寿命の延長にもつながった。

 この成功体験が、大会主催者に電通依存体質を植え付けていったのではないか。JOCや国内競技団体には「電通に任せておけばいい」との考えが定着。安易な国際大会招致が増え、業務の監視機能もなくしていった。「丸投げ」の弊害が東京組織委で最も顕著に表れたといえよう。

 64年東京五輪の成功以来、日本は「五輪の優等生」と評価されてきた。その信頼が内外で揺らいでいる。公正に運営する態勢を再構築しなければ、公金が投入される大規模イベントの日本開催は難しくなるだろう。

 2030年冬季五輪招致は2度目の開催を目指す札幌市が最有力だったが、国際オリンピック委員会(IOC)の態度が変わってきた。札幌市が不祥事に配慮して招致活動を自粛している間に、新たにスウェーデンが立候補の検討を始めた。水面下でIOCの働きかけがあったともされる。IOCは五輪批判が高まる日本を敬遠したいのだろうか。今後の選定手続きの透明性が重要になる。

 今回の事件については組織委、東京都、JOCがそろって人ごとのような姿勢に終始している。検証も再発防止策もあいまいなままだ。政府の対応も中途半端で、本気になって改革する意欲が感じられない。

 信頼回復への最初のステップは、イベントに関わるスポーツ団体、自治体がまず主体性を取り戻すことだろう。