マスク姿で名古屋駅前を歩く人たち=1月25日
マスク姿で名古屋駅前を歩く人たち=1月25日

 政府の新型コロナウイルス対策を巡る新指針により、13日からマスク着用が個人判断に委ねられる。流行が始まって3年超。日常生活に浸透した「マスク着用ルール」が大幅に緩和される。

 5月8日には、新型コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同等の5類に移行。入院勧告や感染者、濃厚接触者への外出自粛要請もなくなり、ウイルスと共存しつつ社会経済活動を元に戻す「ウィズコロナ」が本格化する。それまでの約2カ月間は助走期間と位置付けたい。

 ただ国内の1日当たり新規感染者数はなおも1万人前後に上っており、緩みは禁物だ。拙速を避け、周到に準備し、段階を踏んで「有事から平時へ」の回帰を進めたい。

 3月13日からは、全員着席可能な新幹線や高速バスではマスクを外すのが容認されるが、混雑した電車やバスでは着用を推奨。医療機関や高齢者施設への訪問時なども着用を勧める。流行が収束しきっていない以上、感染リスクの高い場所、重症化リスクが高い人の着用がなお有効であることは再確認したい。

 学校教育活動では4月1日以降、基本的にマスク着用を求めない。それに先立つ卒業式も、児童生徒らは外して出席するのが基本となる。だが同調圧力が働く懸念は残る。着けたい人、外したい人の自由意思が阻害されることがあってはならない。互いに気配りしたい。

 当面の課題は何か。再び感染拡大の波を招き、社会経済活動が大きく制約されてしまう事態は何としても防ぐ必要がある。政府、自治体が先頭に立って引き続き感染の抑制に力を尽くすことが、ウィズコロナ本格化を安定軌道に乗せるための前提であることは明白だ。

 それには、感染後に重症化しやすい高齢者や基礎疾患を抱える人たちを中心に対策が欠かせない。具体的には、ワクチン接種をなおも推進することが第一に重要となる。オミクロン株対応ワクチンを打ち終えた人はまだ5割に満たない。この現状を早く改善したい。

 5月8日からは、65歳以上の高齢者らに対し、2023年度のワクチン接種が実施される。5歳以上で基礎疾患があるなど重症化リスクが高い人、医療・介護従事者も対象となる。人々がマスクルール緩和で安心し、接種の動機が薄れないよう積極的な広報も必要だ。

 政府は、5類移行に伴い医療体制も見直す。現在無料となっている検査や陽性判明後の外来診療は患者に負担を求め、入院費も原則自己負担とする。病床確保支援などを含め医療提供体制への国費支出は主な施策だけで約17兆円に上っており、折を見て財布のひもを締めるのはやむを得まい。

 しかし患者負担が過大になれば検査や治療を我慢するようになり、特に高齢者らが重症化しないか心配だ。政府は自己負担額をインフルエンザと同水準に抑えるというが、医療現場に混乱がないよう目配りが必要だ。

 入院費自己負担が高額になる場合の月最大2万円の軽減策、高価格の治療薬の無料投与などは9月末までだが、推移によっては継続も検討すべきだろう。

 ウィズコロナの社会には、重症化防止に有効な飲み薬やワクチンの継続的な開発も欠かせない。それらを国産でまかなえる技術、体制の確立も引き続き大きな課題だ。