作家藤沢周平が病のため69歳で生涯を閉じた1997年1月から間もなく。妻和子(故人)は都内の自宅のたんすで封筒に入った5枚ほどの原稿用紙を見つけた。端正なペン字でしたためられていたタイトルは「書き遺(のこ)すこと」。藤沢の遺書だった。

 長女遠藤展子(58)が目を通すと、最初に「展子をたのみます」との文字。結婚して子どももいるのに。「よほど行く末が心配だったのか」と展子は目頭を熱くする。専業主婦が藤沢作品の継承に携わる転機...