ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長(2019年死去)から性被害を受けていたと、元ジャニーズJr.の男性が告発する記者会見を開いてから1カ月。所属タレントのファン有志らが実態調査などを求める署名を事務所に送った。ファンは子どもからお年寄りまで幅広く、海外にも及ぶ。その分、ジャニーズ事務所の社会的責任は重い。ファンに応える意味でも事務所は事実関係を早急に調査し、現実に向き合ってほしい。
所属タレントのファン有志らが設立した「PENLIGHT(ペンライト) ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」の男女2人が11日、東京都内で記者会見を開いた。第三者委員会を設置して性加害の検証・実態調査をするよう求める署名約1万6千筆と、40人以上のファンの声を事務所に送ったと発表した。
会見冒頭に「足かけ10年以上のファンです」と語り始めた女性は、「ファン活動を続けることは性暴力を容認することになるのではないか」という迷いと「ファンをやめたくない」という思いの間で揺れたと明かした。そして「性暴力被害者が声を上げたら、応える社会でありたい」「事務所は誠実に対応してほしい」と訴えた。早急な実態調査が求められている。
「推しがお世話になった会社とはいえ、許すこともかばうこともできない」「CDやライブ経由で事務所にお金を払っていた自分もある意味性加害に加担していたのでは?という罪悪感にさいなまれます」。「PENLIGHT―」に寄せられたファンの声は切実だ。
ジャニー喜多川前社長の性加害問題は、20年以上前から「週刊文春」が報道してきた。同誌の記事が名誉毀損(きそん)に当たるとして事務所側が損害賠償を求めた訴訟では、04年に記事の主要部分を真実と認める判決が最高裁で確定している。今年3月には英BBC放送が被害者の証言を報じた。さらに4月12日、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが記者会見し「12~16年に15~20回ほどの性被害を受けた。(前社長が)当時15歳の僕や他のJr.に性的行為を行ったことは悪いこと」と明言した。
オカモトさんの会見後、事務所は「コンプライアンス順守の徹底などを全社一丸となって進める」とコメントした。さらに外部専門家による元所属タレントらの相談窓口設置などを記した文書を取引先に送付した。しかし、公の場で正面から説明しない姿勢は疑問だ。
従来、男性が被害者となる性暴力は理解されにくい面があった。だが、17年の刑法改正で、男性も強制性交罪の被害者に含まれるようになった。さらに今国会に、自分で意思決定できる「性交同意年齢」の13歳から16歳への引き上げや、性的目的で子どもを手なずける「グルーミング」の処罰を含む改正案が提出された。
前社長は故人で、反論や説明ができないことは考慮する必要がある。それでも、性暴力を巡る社会認識の変化を踏まえ、事務所は組織として適切に対応する必要がある。
記者会見した「PENLIGHT―」の男性は、この問題をほとんど報じてこなかった大手メディアの姿勢が「性加害を黙認する事務所を支えてきた」と批判した。性暴力を巡る取材と報道はこれで良かったのか。メディアの側も批判を真摯(しんし)に受け止めたい。













