梅雨の時分、湿気は嫌うが雨の匂いが好きという人は多い。個人的には小中学生の頃の通学路や大学時代のアパートの記憶がよみがえり、心が落ち着く▼降り始めの雨の匂いはペトリコールと呼ばれ、ギリシャ語で「石のエッセンス」を意味する。オーストラリアの鉱物学者による造語である。特定の植物から発生する油が、土や石に付着しており、雨に当たった瞬間に粒子となって舞い上がることで独特の匂いがするのだそうだ▼この匂いを再現した香水やアロマ製品を各メーカーが出しているというから、本能に響くリラックス効果があるのだろう。匂いが、懐かしさや過去の記憶を呼び起こすのは、嗅覚の特徴がある。視覚、聴覚、触覚、味覚を含めた五感の中で唯一、匂いは記憶や情動に関わる「大脳辺縁系」に直接伝達され、その記憶が長く失われないからだ▼こうした香りを活用し、旅の記憶を呼び覚ます観光プロモーションが各地で進む。奈良市の雑貨店は、吉野スギやヒノキなど10種の地域資源の天然精油を調香し、奈良の文化や伝統を香りで表現したブレンド精油を開発。和歌山県でも熊野の森をイメージしたオイルが人気という▼島根の香りは何だろうか。独断で言えば、早朝の参道を歩くと感じる出雲大社の森の匂いだが、日本海に面して宍道湖もあり、しっとりした空気感から「水」に関係する香りがベストか。いかがでしょう。(衣)