<たのしみは/朝おきいでて/昨日まで/無かりし花の/咲ける見る時>。幕末期の「清貧の歌人」といわれる橘(たちばな)曙覧(あけみ)の『独楽吟(どくらくぎん)』の中の一つだ。いずれも「たのしみは」で始めて「…とき」で終わる52首は、暮らしの中での小さな「楽しみ探し」でもある。気付きにくいが、気持ちの持ちようで随分あるものだと思う▼コロナ禍のため在宅勤務をした時期は、庭に出て野草をよく眺めた。しゃがんで目を近づけると、それまで雑草扱いしていた草花にも、それぞれの表情がある。花の時期や色と形、葉の形を手がかりに図鑑で名前を調べることが楽しみの一つだった▼その習慣のおかげで、今も朝早く目覚めると、庭に出て草木の様子を確認する。このところのお目当ては、例年より早く先月下旬から花をつけ始めた「ネジバナ」の可憐(かれん)な姿。ラン科の多年草で、高さ20~30センチの花茎の先に小さなピンク色の花を、らせん状につける▼植えた覚えはないのに、7、8年前から庭に増え始め、今では芝生の中に、飛び飛びに100株近くが育つ。日当たりのせいか、場所によって育ち具合が違い、花茎が伸びる前から、踏みつけないように注意して見回っていた▼ネジバナを見ていると、幼い孫娘と接しているときのように心が和む。だから楽しみなのだろう。一輪挿しに入れるのもいいが、今年はスケッチブックを用意した。また新たな楽しみ探しだ。(己)