管理職になって13年。部下から退職願を受け取った経験が一度だけある。当時彼は中堅記者。重い腰痛を発症した上、不規則な勤務で自分や家族との時間が確保できず、悩んだ末、公務員に転職した。そんな苦悩に早く気付いてやれなかったことを悔やんだ▼だからだろう。有識者として松江市で開く公務員問題懇話会への出席を人事院から依頼され、戸惑った。国家公務員の人材確保策について意見を聞きたいという。部下を公務員に〝奪われた〟身として「民業圧迫だ」「公務員ならば人気があるでしょう」と反感も抱いたが、会場で深刻な実態を知った▼特に「キャリア官僚」と呼ばれる総合職試験の本年度の申し込みは1万4372人で、ピーク時の6割。民間企業へ転職する現役官僚も増えている▼主因は国会対応。議員が政府に対して国会での質問内容を事前に伝える質問通告が遅かったり、内容が不明確だったりで長時間労働を強いられ、それが国家公務員離れにつながっている。やらされ仕事ばかりで、やりがいを持てないのも一因らしい▼業務内容や待遇の改善が第一だが、当事者に寄り添う姿勢も大切だ。従業員5千人超の大企業では、自らの人事評価や異動に納得する人が多いという。理由を真(しん)摯(し)に説明する人材を配置しているからだろう。人手不足にあえぐ山陰の企業にも参考になる。管理職の負担と気苦労は増えるばかりだが。(健)













