「ツール・ド・フランス」の最終ステージでパリのシャンゼリゼ通りを走る選手たち=2020年7月
「ツール・ド・フランス」の最終ステージでパリのシャンゼリゼ通りを走る選手たち=2020年7月

 報道や映画で虚構を用いずに、ありのままの姿を表現するのが「ドキュメンタリー」である。テレビ番組で最もドキュメンタリー性が高いのが、マラソンや駅伝、自転車のロードレース、トライアスロンなどの生中継だと思う▼レース上の選手が見せる様相もさることながら、その時代の世相を延々と映し出している。町並み、沿道で応援する人たちの服装や仕草(しぐさ)、決して起きてほしくはないが、起こるかもしれないとハラハラ、ドキドキするハプニング…。映像は単調なのに時間があっという間に経過する▼「世界最高」のドキュメンタリーと言っても過言ではない自転車レース「ツール・ド・フランス2023」がきょう開幕する。隣国・スペインのバスク地方をスタートし、恒例のパリ・シャンゼリゼ通りの凱旋(がいせん)まで、2日間の休息日を挟んで計23日間かけて一団が駆け抜ける▼現地観戦はとてもかなわぬ夢で、配信映像を見るのがもっぱらだ。レース以外の楽しみが「田舎の景観美」。世界遺産モンサンミッシェルに代表される観光地だけではなく、名もなき町の整然とした石造りの家屋群、色彩が統一され、電線がなく見通しが広くすっきりした市街地などが見る者を魅了する▼それぞれの自治体が景観の何たるかについて試行錯誤し、建物の高さや看板規制などを通じて個性や品格を保っている。分権国家の「地力」がレース脇からも見える。(万)