TOTOのサード・アルバム「ターン・バック」
TOTOのサード・アルバム「ターン・バック」

 TOTOが1982年に発表したアルバム「TOTO4~聖なる剣」は、名実ともに代表作だが、その前年の81年にリリースしたサードアルバム「ターン・バック」も名盤だと思う。意外にもストレートなロックアルバム。セールス的には振るわなかったことへの判官びいき的な思いも加わって、愛着が強い。

 アルバム全体を通して、スティーブ・ルカサーのギターがかっこよく鳴り、ジェフ・ポーカロは迫力のドラムを響かせる。ボビー・キンボールのハイトーンボイスもパワフル。アルバムの幕開けにふさわしく、ワクワクさせるような軽快なナンバー「ギフト・ウィズ・ア・ゴールデン・ガン」や、スティーブ・ルカサーがボーカルも担うキャッチーなロックバラード「リヴ・フォー・トゥデイ」、レコードではB面1曲目でアルバム後半に勢いをつけたハードな「グッバドバイ・エリノア」など、わずか8曲の構成だが、どれもが聴かせる曲である。

セカンドアルバム「ハイドラ」

 TOTOとの出合いは、79年のセカンドアルバム「ハイドラ」からのシングル「St.ジョージ&ザ・ドラゴン」と「99」だった。この2曲は好きだったが、プログレッシブロック色のあるアルバム「ハイドラ」は、まだ洋楽を聴き始めた頃でもあり、難しい印象を受けてあまりなじめなかった。2年後にはロック好きの中学生になっていて、単純明快なロックアルバム「ターン・バック」に共感できたのだろう。

 米西海岸のつわものスタジオミュージシャンたちで結成したTOTOは78年にシングル「ホールド・ザ・ライン」が米ビルボードヒットチャート5位を記録し、アルバム「TOTO~宇宙の騎士」もベスト10入り(9位)して華々しいデビューを飾った。しかし、続くアルバム「ハイドラ」は37位、「ターン・バック」は41位と、いずれも芳しくなかった。「ハイドラ」はシングル「99」のヒット(26位)が生まれたからまだよかった。「ターン・バック」からはシングルヒットがなかったこともあってか、過小評価されているように思う。

アルバム「TOTO4~聖なる剣」

 その翌年に新曲「ロザーナ」を聴いた時には、徐々に盛り上がっていく曲の展開とともに、ヒットへの期待で胸が高鳴った。当時、毎週ラジオを聴きながらビルボードヒットチャートを追いかけていて、順調に2位まで上がったものの足踏みしてトップになれなかったことには残念な思いをした。さらなる新曲「アフリカ」はそれまでのTOTOにはない雰囲気のポップソングで、「おぉ~」と感動しながら聴き入った。この曲がバンド初となるシングルチャート1位を獲得した時には歓喜した。

 アルバム「聖なる剣」は「アフリカ」「ロザーナ」のほか、オーケストラも入った名バラード「ホールド・ユー・バック」(10位)などのシングルヒットを生み、アルバム自体も最高4位に到達。グラミー賞では最優秀アルバム、最優秀レコード(ロザーナ)などを獲得した。TOTOはこの年、米音楽界で頂点に立ったといえるほど輝いていた。

 「聖なる剣」には、「ターン・バック」の流れを受け継ぐようなロックナンバーの「アフレイド・オブ・ラヴ」や「ウィ・メイド・イット」もある。バラエティーに富んだ内容で、アダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)をベースにした万人受けするTOTOロックの完成形といえる作品だ。

 メンバーが「ターン・バック」をどう評価した上で「聖なる剣」を制作したのか知る由もないが、もし「ターン・バック」が大ヒットしていたら、TOTOはハードロック路線へと突き進み、「聖なる剣」は生まれなかったかもしれないと思うのである。(洋)