尿漏れや子宮脱などを引き起こす原因に、骨盤の底にある膜のような筋肉の集まり「骨盤底筋群」の緩みがある。普段意識することは少ないが、出産をはじめ、せきやくしゃみ、排便時のいきみ、日常の姿勢などで、日々ダメージを受け続けている。そんな骨盤底筋群に着目し、正しいケアで体の不調を改善しようという考え方が広まりつつある。 (増田枝里子)
骨盤底筋群は、骨盤の底にある筋肉の「ガードル」のような存在だ。臓器を支え、体幹を安定させたり排せつをコントロールしたりする。女性の骨盤底筋群には穴が三つ(肛門、腟(ちつ)、尿道)あり、男性に比べると横長で広く、腸、ぼうこうに加えて子宮と卵巣と支えるものが多く負担も大きい。
妊娠や出産に伴う負荷も大きい。妊娠時には約3キロに成長する胎児と子宮に圧迫される。さらに出産時に胎児を出しやすくする「会陰切開」をすると、この筋肉が断ち切られる。表面上は治ったように見えても、症状が後から現れてくる場合もある。
骨盤底筋群のケアは必要不可欠、というのが欧米の考え方。特にフランスでは、出産経験を問わず骨盤底筋ケアを100%保険適用で受けることができる。一方で日本では自費診療。それに「生理痛や産後の尿漏れはよくあること」「当たり前」という考え方が横行していて、骨盤底筋のケアはまだ浸透していない。
出雲市大社町北荒木のレンタルスペース「礼」で、整体院kahana(カハナ)を開いている理学療法士の島津偉匡さん(30)=益田市出身=は「肛門や尿道が自力で締められるか、確かめたことすらない人が多い」と指摘する。本来は自分の力でコントロールできるはずの骨盤底筋群だが、まずは自分の状態を知るため、入浴時に手を当て、力が入るか確かめてみるといい。島津さんは「まずは、自分で動かせない、と気付くことから始まる」と強調する。
どうしたら鍛えられるのか。島津さんが勧めるのは、タオルを細長く丸めて肛門、腟、尿道に当たるように座り、筋肉にぐっと力を入れてタオルを持ち上げる感覚を繰り返すトレーニング。日常に取り入れ、意識的に筋肉を動かしてみるといい。鍛えると、尿漏れや便秘、生理不順、月経前症候群の改善などが期待できるほか、ホルモンバランスや体のゆがみも整いやすいという。
島津さんは「骨盤底筋という『土台』がしっかりすれば、内臓の位置が整い、体の不調も改善しやすい」とし「産後だけでなく独身や妊活中の人、子育てを終えた人など、幅広い層に骨盤底筋の大切さを知ってほしい」と呼び掛けている。