「お金って、大事な人のために使うんなら、価値は何倍にもなると思うんだよね」。4年前に放送された人気ドラマ『きのう何食べた?』の一場面だ。倹約家で料理好きの弁護士シロさん(西島秀俊さん)と美容師ケンジ(内野聖陽さん)の男性カップルの物語。冒頭の言葉は年老いた両親への仕送りに悩むシロさんにケンジがかけた。いい話だなと心に留めている▼その前段でケンジのお金の使い方にいらいらするシロさんが描かれる。誕生日に数万円する傘をプレゼントされ「ありがとう」と口にしつつ、「何で傘に何万もかけるんだ」と心の中で文句を言う▼シロさんならずともけちけちしがちになる世相がある。帝国データバンクは2023年の食品の値上げが3万5千品目前後に達し、値上げラッシュとなった22年通年の2万5768品目を上回ると予想。国の22年度一般会計決算は歴史的な物価高で、消費税収が約23兆円と過去最高となったというから家計の苦労がしのばれる▼せめて気持ちだけでもけちらないようにしたい。シロさんはケンジの言葉もあり、誰かを思って使うお金は尊く、損をした、無駄だったと思えば価値が下がることに気付く。「大事に使うよ」と最後は2人で並んで歩き、傘を差した▼<いい話をきかせてもらうことは、いつ迄(まで)も減らない福を贈られたと同じである>。幸田文さんの随筆の一文を、ふと思い出した。(衣)