先日、東京・六本木のギャラリーで一人の彫刻家を取材した。松江南高校出身の彼は、高校2年から彫刻家を目指し、東京芸術大卒業後に夢をかなえた▼38歳の彼は高校時代のクラスメート。プロとはいえ、安定した収入は得られず、都内で高校の非常勤講師をしながら制作活動を続けているという。東京で必死に踏ん張る姿に刺激を受けた▼実は当時、あまり会話をした記憶はない。それでも、同じ学びやで机を並べたというだけで、共通の知人の近況などを含め2時間近く話し込んだ。苦悩を明かしてくれたのも同級生のよしみもあったろう▼人間の内面を木彫作品に表現するのが彼の制作スタイル。4年ぶりに開催中の個展では、年齢を重ねても大人になった感覚が芽生えない自身の心境について、森をさまよう少年と少女の姿を通して伝える。迷い、悩む同級生に自らを重ねる。論語は「四十にして惑わず」というものの、目前になっても実感が湧かない▼インターネット上では現在の40歳前後を「就職氷河期」と「ゆとり」の間の「はざま世代」と呼ぶらしい。小学生で阪神大震災、20代で東日本大震災を経験し、自力ではどうすることもできない社会環境の変化と困難に直面した世代だ。取材から数日後、都内であった高校の同窓会に出向くと、8人いた同期は妙な連帯感があった。個々の人生に触れ、迷いながらも前に進む思いを強くした。(吏)