松江市美保関町七類の惣津漁業会(組合員43人)が進めるアワビの放流事業が、軌道に乗り始めた。量は少ないものの出荷できるようになり、国内外の料理店で使われるなど知名度が徐々に向上。市が支援に乗り出しており、関係者は、漁師の担い手不足や人口減少にあえぐ漁村の活性化につなげる考えだ。 (片山大輔) 同会はアワビの生息場所となるテトラポットや岩礁が近場にあることに着目。新たな収入確保や若手漁師の獲得を狙い、2013年春に事業を始めた。
養殖に取り組む市鹿島・島根栽培漁業振興センターから3センチ、3グラム程度まで育ったメガイアワビとクロアワビの稚貝を仕入れ、年1回、春か秋に5千個程度を水深4~5メートルの岸壁近くに放流。
需要が多い400グラム以上に育つまで4~5年かかる中、18年ごろから試験的に出荷できるようになった。
素潜り漁から販売までを担う同会の森脇康之さん(50)が水揚げ後、水槽や海中の籠で餌のアラメを与えたり、砂抜きしたりして肉厚のアワビの出荷を準備。
えぐみや雑味がなく、風味や味が良質として和洋の有名料理店が重宝し、東京をはじめ、大阪、札幌、京都、香港と口コミなどで供給先が広がっている。1キロ1万5千円程度で取引されるという。
市は地域のブランド化を支援しようと、21年度一般会計当初予算に魚礁整備費500万円を盛り込んだ。
20年の漁獲量は20キロ程度。売上高は十数万円にとどまるものの、森脇さんは安定的に水揚げし「将来は地域の特産にしたい」と力を込める。
同会は森脇さんを除く組合員は60歳以上となっており、担い手確保が課題。放流事業はスタートラインに立ったばかりで山本洋一会長(74)は「若い人が興味を持ち、やりたいと感じる事業に育てたい」と話した。
県によると、県内のアワビの水揚げ量は20年は17トン、売上高は1億2200万円だった。