学校が夏休みに入り、家族でキャンプやBBQを予定している人も多いのではないだろうか。新型コロナウイルスの5類移行により、行動制限もなくなり、久しぶりに楽しみたいところだが、注意したいのが食中毒だ。5月末から全国的に腸管出血性大腸菌O157が急増。島根県でも7月上旬に8年ぶりに集団感染が確認され、18日時点で昨年の感染者数(18人)の4倍の感染者が出ている。菌が増殖しやすい中でも、夏の楽しい思い出をつくるため、食品関係の専門家に注意点を聞いた。
(Sデジ編集部・鹿島波子)
基本は「つけない」「増やさない」「やっつける」
話を聞きに行ったのは、肉の専門店・宮本食肉店(松江市浜乃木2丁目)。1968年創業の同店は、手軽なBBQセットの貸し出しなども行っており、夏場の衛生管理には特に気をつけている。宮本久雄社長(64)にポイントを聞いた。
まず、食中毒予防の基本は、①菌を付けない②菌を増やさない③菌をやっつける―の3原則だ。
①菌を付けない ・・・▽手洗い▽まな板などの洗浄、消毒
②菌を増やさない・・・▽蓄冷材を入れ、10度以下に保つ▽できるだけ早く食べる
③菌をやっつける・・・▽加熱処理する▽体調は万全に

食中毒の中でも、O157は加熱不十分の牛肉や豚肉、未加熱の野菜などが原因となり、発症すると激しい腹痛や下痢、血便が起きる。また嘔吐や高熱を伴うこともある。潜伏期間が4~9日間と長いため、原因食材を特定しにくいのも特徴だ。
特に子どもや高齢者は重い合併症を引き起こすことが多く、7月上旬に発表された出雲市の児童福祉施設での大規模集団感染でも、3人が合併症で入院した。併発したのが、腎不全や脳障害を引き起こす可能性がある、溶血性尿毒症症候群(HUS)。この病気は怖く、退院しても腎臓が悪くなったり、最悪は亡くなったりするケースもある。軽視するのは危ない。
3点について、どのように気をつければいいのか。基本の3原則を一つずつ押さえていく
① 菌を付けない
まず大事な手洗いについて、洗い方を確認したい。石けんを付けたら「手のひら」→「手の甲」→「指先・爪の間」→「指の間」→「親指をねじる」→「手首」の順番で洗うこと。これを2回繰り返すのが理想で、島根県食品衛生協会で手洗い指導講師を務めたこともある宮本社長は「本気でやることが大事」と強調する。BBQは野外で行う分、トイレの環境が悪い場所もあるため、石けんや消毒液を持参するのが好ましいという。
小さい子どもの場合は、手洗い自体が難しく、何でも口に入れてしまう。手洗いの歌を歌いながらやるなど、嫌がらないように習慣付けさせることが大切だ。

また、手にけがをしていないことも大切。調理や盛り付け時に血が付けば、食べ物にばい菌が入り、「黄色ブドウ球菌」による食中毒が起きる可能性がある。可能なら、調理する人はゴム手袋を使い、念のためマスクや帽子をして行うのがベストだ。
調理器具で、まな板や包丁、トングや箸などもきっちり使い分ける必要がある。特に生肉に触れた調理器具で、野菜を切ったりつかんだりしないようにすること。宮本社長は「一人ずつマイトングを持つのもあり」と提案する。

② 菌を増やさない
食材を持ち運ぶ時は、低温輸送が重要だ。10度を超えると菌の繁殖率は倍になるという。また、調理後でも放置するのはダメで、3時間たつと危険度が増していく。
アウトドアの食事の注意点として宮本社長が挙げたのが「家から持ってきたお弁当やおにぎり」。前日に作ったものを翌日の昼に食べたり、朝に作ったものを夕方に食べたりするのは、菌の増殖を許してしまい危険だという。すぐに食べずに、常温で数時間置いてしまった場合は「諦めてほしい」と念押しする。
BBQの焼き方にもコツがある。焼き当番の人が大人数分の肉を一気に焼くことも多いが、「網の上にたくさんのせ過ぎないこと。今食べる枚数を焼くのが大事」。食べる人を把握し、枚数を管理して焼くことで、ポイントである「できるだけ早く食べる」が実現できる。結果的に菌を増やさないことにつながるという。

それでも、持ってきた量が想定よりも多く、肉が余ってしまうことがある。持ち帰りについて、宮本社長は「あまり勧めない」と注意。焼いてあまり時間を置かずに持ち帰った場合「家で再加熱して食べるのはあり」と話す。肉は固くなってしまうので、「しょうゆやお酒を入れて、しぐれ煮にしたり、よく炒めてチャーハンに混ぜたりすると、おいしく食べられる」と話す。
③ 菌をやっつける
菌を殺すのに「一番大事なのは加熱処理」と宮本社長は強調する。食中毒の原因で最も多いのは、加熱が不十分なために起こるケースだ。一般的に「中心部を75度以上で1分以上加熱すべき」と言われている。覚え方として、O157を逆から読めば、覚えやすい。
牛肉は、レア・ミディアム・ウェルダンと焼き方があるように、表面の色が変化すれば基本は問題無い。豚肉は「中がピンクだとダメ」(宮本社長)で、白く変色するまで焼くことが重要だ。
鶏肉については特に細心の注意が必要。中までしっかり焼くのはもちろん、表面はきつね色になり皮がパリパリになるくらい、十分な加熱をしなければならない。加熱が不十分だと細菌性の「カンピロバクター食中毒」(下痢、腹痛、発熱など他の感染型細菌性食中毒と症状は酷似。潜伏期間は1~7日間)を発症する可能性がある。早く食べたい気持ちは抑えて、焦げない程度に芯まで火を通して食べてほしいという。

肉ばかりではない。未加熱の野菜からも食中毒は発生する。焼き肉で、どんなに新鮮でも野菜はきちんと火を通すことが重要だ。また、浅漬けなど漬物も油断ができない。2014年7月、静岡県の花火大会では、冷やしキュウリを食べた500人以上の観客がO157を発症した。
大勢での食事にはうってつけのBBQ。宮本食肉店でも申し込みや問い合わせが増えているという。宮本社長は「神経質になる必要はないけど、油断はしないように」と注意を呼び掛ける。せっかくの楽しい思い出を台無しにしないため、油断せずに夏を過ごしたい。
