長崎県対馬市議会で、「核のごみ」の文献調査に関し国側に応募しない意向を表明する比田勝尚喜市長(手前)=27日午後
長崎県対馬市議会で、「核のごみ」の文献調査に関し国側に応募しない意向を表明する比田勝尚喜市長(手前)=27日午後

 市民レベルの過激な嫌がらせが報道されなくなり、表向きには騒動が沈静化したようにみえる。東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が始まり1カ月が過ぎた▼だが「核汚染水」と呼ぶ中国の強硬姿勢は相変わらず。日本産水産物の禁輸撤廃は見通せない。中国への輸出に頼る北海道のホタテ加工業者は「在庫の置き場所が満杯になれば、操業を停止するしかない」と嘆く▼満杯といえば、島根原発2号機(松江市鹿島町片句)を来年8月に再稼働する中国電力が使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設建設を計画する山口県上関町では、賛否を巡り町内が分断している。原発内の使用済み核燃料プールが満杯で燃料の入れ替えができないと原発が停止するから、ちょっと置かせてくれという理屈。中電には余裕があるものの、共同で計画する関西電力が切羽詰まった状況。町民から「よそ(中国地方以外)のごみも引き受けるのか」と反発も上がる▼こちらも分断が生まれた。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、対応が注目された長崎県対馬市。比田勝尚喜市長は文献調査に応募しないと表明した▼思えば処理水放出も、貯蔵タンクが満杯になりそうだから、薄めて海に捨てさせてくれという理屈。共通するのは交付金を餌に財政基盤の弱い地方に押し付け、地域の分断を招いたこと。地方は「ごみ捨て場」なのか。(健)