再改造内閣が発足し、記者会見する岸田首相=9月13日、首相官邸(代表撮影)
再改造内閣が発足し、記者会見する岸田首相=9月13日、首相官邸(代表撮影)

 「月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど」。平安時代前期の歌人・大江千里(おおえのちさと)の歌だ。国文学者の池田弥三郎さん(1914~82年)によると、秋をもの悲しい季節と捉えるようになったのは、平安時代の『古今和歌集』からだという▼秋は万物が凋落(ちょうらく)に向かう季節であるだけでなく、秋と同音の「飽き」が恋愛生活の破局を連想させたらしい。風の音や葉のそよぎ、虫の音などが寂しさを思い起こさせたそうだ▼秋風ならぬ世間の「飽き風」が気になっているのは今日で就任2年になるこの人かもしれない。内閣支持率が低迷する岸田文雄首相のこと。内閣改造と自民党役員人事に踏み切ったものの、世論調査では目立った支持率上昇はなかった▼それもうなずける。防衛費の大幅増額も、子ども関連予算の倍増も、国民負担を伴う財源の詳細な説明は後回しだ。これが「岸田流」の政治だとすれば信頼感に疑問符が付く。改造人事でも女性閣僚を歴代最多に並ぶ5人に倍増したのはいいが、計54人の副大臣・政務官の中に女性がゼロでは、ちぐはぐにしか映らない▼岸田首相は、国民の関心が高い物価高に対応する経済対策と、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求を急ぎ、衆院解散の機をうかがう戦略と伝えられる。ただ、そううまくいくかどうか。世間の風を読み誤ると「飽き風」が「木枯らし」に変わる。(己)