11月17日は「世界早産児デー」。妊娠から出産までの期間が通常より短く、早く生まれた赤ちゃんと家族が抱える課題に心を寄せる日だ。(山口春絵)
妊娠24週目、体重324グラムで生まれた男の子は今年の夏、元気に1歳の誕生日を迎えた。出雲市大塚町の森心颯(しんば)ちゃん。母親の梨紗子さん(37)は「ここまで何事もなく育ってくれたのは、夢のようだ」と目を細める。
心颯ちゃんは2022年8月24日、予定日より約4カ月早く、同市の島根大医学部付属病院で生まれた。
その10日ほど前、妊娠と関係する糖尿病や高血圧症候群を抱えた梨紗子さんの体調が悪化。リスクの高い妊婦を受け入れる同病院総合周産期母子医療センターの母体集中治療室(MFICU)に入院した。
状況は改善せず、帝王切開での出産が決まった。医師は新生児の生存率は50%で、生後72時間の容態次第で後遺症が発生する可能性があると告げた。
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梨紗子さんは夫・大輔さん(39)の「後遺症は起きた時に考えればいい」の言葉に救われた。妊娠中に励まされた映画「ライオンキング」の主人公にちなみ、生まれてくるわが子の名前を「心颯」と決めて、出産に臨んだ。
そして心颯ちゃんは生まれた。大人の両手に収まるほどの小さな体。すぐに呼吸や栄養補給を助けるチューブがいくつも付けられた。両親が無事を祈り続ける中、心颯ちゃんは72時間を乗り越えた。梨紗子さんが保育器越しに体に触れると、手足をバタバタと動かした。いとおしく思った。「私を助けるために早く生まれてくれた。自分を責めるより前を向いて、強い母でいよう」と決めた。
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新生児集中治療室(NICU)に入院している間、梨紗子さんは自宅で心颯ちゃんと同じ重さになるように、ペットボトルに水を入れた。体重が増えるたびにつぎ足し満杯になればボトルを大きくした。眺めると、離れて暮らすわが子の成長を身近に感じた。
初めは口に入れたチューブで授乳していたが、哺乳瓶で飲めるようになり12月には人工呼吸器が外れ、23年2月3日に退院した。162日間の入院で体重は2・5キロに増えた。現在は体重約6キロ。体はまだ小さいが、つかまり立ちやハイハイをして家族を笑顔にする。絵本を読んでもらうのも大好きだ。
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早産や低体重で生まれても助かるケースは増えたが発達や健康面での心配が尽きない。梨紗子さんは、交流サイト(SNS)を通じ「同じ境遇の子の成長を見るのが励みだった。元気に育ったことが、誰かの支えになればいい」と、自身も写真や成長をまとめた記事を新聞風に仕立て情報発信する。
1歳の誕生祝いでは、将来を占う「選び取り」で、医療の仕事を示すカードを手にした心颯ちゃん。梨紗子さんは「病院で助けてもらったことを覚えているのかな。日々育っていくのがうれしい。いろんな経験をさせてあげたい」と未来に思いを巡らせる。
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▽早産
妊娠37週から42週未満よりも短い、37週未満で出産すること。体重2500グラム未満を低出生体重児、1500グラム未満を極低出生体重児、1000グラム未満を超低出生体重児と呼ぶ。早く生まれるほど、体の機能が未熟で、障害のリスクも高まるとされる。