今月5日朝、スマートフォンからけたたましい音が鳴った。中国電力島根原発の事故を想定した自家用車による避難訓練の案内。家族5人で松江市から約110キロ離れた避難先の江津市に向かった。秋晴れの中、国道431号をすいすいと走る。風もなく、宍道湖は穏やかで水面がきれいだ。途中、出雲市内で放射線量を検査し、出発して2時間半で江津市内の体育館に着いた。
用意してあった弁当を食べた後、学習会が始まった。中電から島根原発の状況、松江市から避難計画、江津市から観光地などを1時間半にわたって説明を受けた。「江津に来なくてもできるだろうに」と心の中でつぶやいた。
移動はスムーズだった分、余計に考えた。地震や大雨、大雪で道路が通行止めにならないか。われ先に逃げて渋滞しないか。トイレはどうしたらいいのか。何より「共助」が必要になると思った。
東京電力福島第1原発事故から12年が過ぎた。現地取材で被災者が「風化が一番怖い」と語っていたのを思い出す。訓練に参加して良かったことがある。東日本大震災のこと、県庁所在地で唯一原発があること、普段から用意しておくべきこと。家族で話した。
年に1回でも話し、考える。「人間は忘れる生き物」だが「忘れない力」を備えたい。中電は来年8月の島根2号機再稼働を目指している。半径30キロ圏内には約45万人が暮らす。傍観者ではいられない。(添)