経済対策について記者会見する岸田首相=2日午後、首相官邸
経済対策について記者会見する岸田首相=2日午後、首相官邸

 <秘すれば花なり、秘せざるは花なるべからず>。室町時代の能楽師・世阿弥(ぜあみ)の有名な教えだ。劇作家で評論家の山崎正和さん(1934~2020年)によると、この場合の「花」とは表現の効果で、何を隠すのかというと演者の意図なのだという▼これ見よがしで作為が見え過ぎる、俗に言う「くさい演技」になると、観客は横を向いてしまうことを世阿弥は身に染みて知っていたらしい▼政治の世界でも同じことが言えるかもしれない。内閣支持率の低迷にあえぐ岸田文雄首相が政権浮揚の目玉に掲げた所得税減税などの経済対策は評判が散々。共同通信の今月初めの世論調査では「評価しない」が約62%に上った。その理由のトップは「今後、増税が予定されているから」(約40%)だったが、「政権の人気取りだから」も20%近くあった。首相の意図や作為が見透かされてしまった感じだ▼観客の前で、自然の花が咲いたような抵抗感のない見事な演技をするには<わが心をわれにも隠せ>と教えた世阿弥。山崎さんはその意味を、自分の意図や作為を忘れてしまうまでよく稽古をしろと言っているのだと解説する▼鼻先にニンジン(1人当たり4万円の定額減税)をぶら下げるような施策が、自負する「聞く力」で国民の声に耳を傾けた結果なのか。それとも自らの自民党総裁再選のためなのか-。首相の「わが心」に注がれる国民の視線は厳しい。(己)