ルワンダのマウンテンゴリラ。絵本作家の小風さちさんは、ゴリラの絵本を作るのに10年をかけたという=2016年9月(共同)
ルワンダのマウンテンゴリラ。絵本作家の小風さちさんは、ゴリラの絵本を作るのに10年をかけたという=2016年9月(共同)

 小説家や作家の頭と心の中はどうなっているのか。事象や事件を伝える新聞記者とは違い、白紙から物語をどう導き出すのかに関心があり、機会があれば講演会に足を運ぶ▼先日、出雲市内で話を聞いたのは絵本作家の小風さちさん。父親は福音館書店の初代編集長松居直(ただし)さん(1926~2022年)だ。小風さんは事前取材をする際、物語の主役となる題材だけでなく、それに出会った子どもの反応もじっくり観察するという▼例えば飛行機。離着陸が見える公園で、その場にいた子どもは足元にあった小枝をジェット機に見立てた。小枝は命を吹き込まれたかのように砂利道を滑走し、空へ飛び立ち旋回。そんな子どもたちの自由闊達(かったつ)な心に届く言葉を紡げるのか途方に暮れるが、そのまま素直に表現する大切さに思い至るという▼2年前に刊行された『ゴリラ』はゴリラを描き続ける画家阿部知暁(ちさと)さんと協働し、10年かけて完成させた。ゴリラがいる国内の動物園は全て足を運び、アフリカに2度渡り、ゴリラが見ている景色に触れて言葉を導いた▼「小手先ではなく、その世界を見せたい」と小風さん。2児を育てた母としての実感も合わせ、「子どもは言葉を食べる(吸収する)」と表現する。だから「物書きが言葉を選ぶとき、着色料や甘味料が入ったものは食べさせたくない」とも。どんな職業も同じなのだ。自他に誠実な仕事は受け入れられる。(衣)