益田市のグラントワ内にある島根県立石見美術館で会期末が近づいた建築家内藤廣さんの企画展に足を運んだ▼情熱的で自己主張が激しい「赤鬼」と、控えめでリアリストの「青鬼」という内藤さんの内面にいる2匹の鬼の掛け合いで、手がけた建物を解説する。2匹がせめぎ合い、葛藤しながら新しい建築を生み出していく思考の一端が垣間見えて面白い▼追い求める理想の前に建設費という壁が立ちはだかり悩む姿も。例えば代表作のグラントワ。財政難の県から大幅なコストダウンを求められ、<途中で中止になるかもしれないと何度も思いましたよ>(赤鬼)。<それでも基本的な考え方は変えなかったけど。とくに石州瓦の外装は守り抜いた>(青鬼)。赤瓦で覆われていないグラントワなんて想像すら難しく、ありがたいの一言に尽きる▼では、こちらのシンボルは守り抜けるだろうか。はたまた守るべきものかどうか。開幕まで500日を切った大阪・関西万博の会場に約350億円を投じ設置される木造の大屋根(リング)が「無駄遣い」「日本一高い日傘」とやり玉に挙げられている▼万博のシンボルが建設費上振れの象徴にされた感は否めない。建築物として見てみたいが、閉幕後に残らないとなれば考えものだ。国民負担の増加に加え、準備の遅れなど何かと問題は多い。「そもそも開催は必要?」。疑心暗鬼という鬼をはびこらせたくない。(史)