心が痛み、祈るしかできない年初め。地震被災地を思い気持ちが沈みそうになる中、うれしい賀状が今年も届いた。1羽のマナヅルに寄り添う女性の写真に、「おツルさん暑さ寒さにもたえ元気です」の手書き文字。
女性がおツルさんと呼ぶマナヅルは、出雲市内の川に30年前からすみ着く。卒寿を迎える女性はその川沿いのアパートに暮らし、20年前に夫を亡くすと、1人暮らしを励ますかのように土手から見つめるおツルさんに気付き、いつしか話し相手になった。
決まった時間にアパート前の川面に降り立つおツルさん。女性が表に出ると土手を上がり、地面に置いたパンや米をついばむ。性別は不明だが、女性はおツルさんを通じて交友関係が広がり、穏やかに過ごせていることから「夫が姿を変えたのでは」と感じている。
「2人」とは7年前に知り合い、2度ほど対面にお邪魔(じゃま)した。互いを慈しむ気持ちが伝わる不思議で自然な時間だった。当時、記事にしようとも思ったが、見に来る人が増えて2人の時間が奪われるかもしれないと、小欄で触れるにとどめた。
以来、毎年の賀状で、出雲の片隅で続く温かい交流を確かめることが、私の生きる力の一つになっている。だからこそ、こうして大事な人と心の中でも再会できる年始が奪われた被災地をやはり思わずにはいられない。物理的な支援はもちろん、難が少しでも減るようにと、また祈る。(衣)