煮ても焼いても、天ぷらにしてもうまい。生でもいけるという。鳥取県西部の特産で、鍋に欠かせない白ネギのことだ。
1月下旬の雪は、弓浜半島から大山の山麓まで広がる産地で「葉折れ」を広げた。寄せて固めた土の中で育つ白い部分は何ともないが、地上で真っすぐ伸びた葉が、雪で逆「ハの字」に開き、さらに翌日の湿った重い雪で折れてしまった。にじみ出る水分が、そうするのだろう。取材で訪ねた米子市内の畑で、鼻腔(びくう)の奥を突くネギ特有の香りは、芳醇(ほうじゅん)と形容したいほど濃く漂った。
産地内の標高差や土質の違いを生かして周年の「リレー出荷」ができるのが強みで、春、夏、秋冬のシーズンがあるが、旬といえば、この時期。寒さから身を守ろうとするネギは体内で糖をつくり凍結を免れる。その分、甘みを増す。救済措置として長さや葉の枚数などの基準を緩和し3月中旬まで「雪かぶりねぎ」の名で出荷されるネギは、雪の下でもうひと踏ん張りしたことだろう。
栽培期間10カ月。腐ったり枯れたりする心配が続いた生育期の夏の猛暑を乗り越え、いよいよ出荷というタイミングの雪害だ。
「旬」をつくり出す摂理とともに、時に努力や苦労を無に帰する不条理も自然のなせる業だなどと、言葉で片付けられはしない。せめて食べて応援しよう。地産地消はもちろん、被災地・能登半島の特産品の取り寄せもできないか。思いは巡った。(吉)
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