1月下旬に国民宿舎さんべ荘(大田市三瓶町)で指された第73期王将戦第3局は、タイトル戦恒例の勝負めしやおやつに加え、1泊80万円の特別宿泊プランが販売されるなど、新手の趣向で盛り上がりを見せた。さんべ荘での開催は2年連続7回目。高級旅館ではない国民宿舎が幾度も対局会場になる理由に、かつての熱心な誘致活動と創意工夫がある。
 

過去の写真を見ながら、王将戦誘致の経緯を振り返る宇谷義弘社長=大田市三瓶町、国民宿舎さんべ荘


 スタートは2000年ごろにさかのぼる。当時さんべ荘の社員だった宇谷義弘社長(77)が、王将戦主催者で、もともと懇意にしていたスポーツニッポン新聞社の広告担当者に「王将戦を開いてみないか」と打診されたのがきっかけだったという。さんべ荘は1960年に開設し88年に現在の建物が完成。格式ある旅館やホテルがタイトル戦会場となる中、宇谷社長には夢物語に思えた。

 しかしタイミング良く、02年12月に向けて離れの宿泊施設を大規模改築する計画と重なった。箔(はく)を付けたい思いもあり、実現へ向けて走りだした。

対局室に使う離れの客室=大田市三瓶町、国民宿舎さんべ荘

 離れの改築は14の部屋数を7部屋に減らす内容で、主流になった個人旅行客への対応を狙った。タイトル戦仕様となると、さらに対局室となる部屋に床暖房を完備し、対局以外で両対局者が顔を合わせなくて済む造りが必要となる。設計に工夫を凝らした。

 その上で当時のスポニチ西部本社(福岡市)代表で益田市出身の片山健一さん(故人)に話を持って行くと、”激辛”な応手を食らった。「安かろう悪かろうの国民宿舎にタイトル戦の開催は無理」。それでも改めて図面を送り、完成した離れにも招待すると、...