今回は「島根県にまつわる本」を紹介(しょうかい)します。
『小泉八雲(こいずみやくも)と妖怪(ようかい)』(小泉凡(ぼん)著(ちょ)、玉川大学出版(しゅっぱん)部)は島根を愛した作家、小泉八雲が自ら語るかたちで書かれた伝記。彼(かれ)の波乱万丈(はらんばんじょう)な生涯(しょうがい)を一緒(いっしょ)に旅してみましょう。
妖怪や幽霊(ゆうれい)など八雲の「異界(いかい)」への関心を育んだのは、子ども時代を過(す)ごした妖精(ようせい)文化の国・アイルランド。そこで、乳母(うば)からたくさんの妖精物語や怪談(かいだん)を聞いたそうです。そんな八雲にとって神話が根づく島根は魅力的(みりょくてき)な場所だったのでしょう。
松(まつ)江(え)で出会った妻(つま)セツは八雲の創作(そうさく)にも一役買っています。セツが語ってくれた日本の伝説や昔話をもとに、八雲は多くの怪談文学を生み出しました。
感覚を研(と)ぎすませ、生涯にわたり「目に見えない世界」にひかれ続けた八雲。彼の人生には、幽霊や妖怪たちと仲良くなれるヒントがあるのかもしれませんね。
命の限(かぎ)り「戦争のない未来」を願い続けた故郷(ふるさと)の先人がいます。『永井隆(ながいたかし) 平和を祈(いの)り愛に生きた医師(いし)』(中井俊已(なかいとしみ)著、童心社(どうしんしゃ))は、島根県生まれの医師・永井隆博士(はくし)の伝記。
長崎で医者になった彼は、白(はっ)血(けつ)病(びょう)に侵(おか)されながらも放(ほう)射(しゃ)線(せん)医学の研究に励(はげ)みます。やがて長崎に原爆(げんばく)が投下されると、被災(ひさい)した人々の救護(きゅうご)活動にあたります。病気が悪化し、寝(ね)たきりになっても原爆の恐(おそ)ろしさや平和の大切さを訴(うった)えかける本を書き続けました。彼の著書『長崎の鐘(かね)』は歌や映(えい)画(が)にもなり、日本中の人々を感動させ、勇気づけています。
彼が亡(な)くなった時は長崎で初めての市民葬(しみんそう)が行われ、約2万人もの人々が参加したそうです。人を愛し、人に愛された永井博士。彼が考えていた平和の基盤(きばん)こそ愛でした。
私(わたし)たちの身近にあるいろいろなものに使われている鉄。鉄は日本でどのようにつくられてきたのでしょうか? 日本古来から伝わる鉄づくりに砂鉄(さてつ)を原料、木炭を燃料(ねんりょう)にする「たたら製鉄(せいてつ)」があります。
中国山地は良質(りょうしつ)な砂鉄と木材がたくさん採(と)れたため、島根県ではたたら製鉄が盛(さか)んに行われました。でも、どうやって木炭を使い砂鉄から鉄ができるのでしょう?
『イチからつくる鉄』(永田和宏(ながたかずひろ)編(へん)、山﨑克己(やまざきかつみ)絵、農(のう)山(さん)漁(ぎょ)村(そん)文化協会)は、鉄や鉄づくりについて科学の視点(してん)から学べる1冊(さつ)です。身近にある道具を使ってできる簡易的(かんいてき)なたたら製鉄で鉄づくりに挑戦(ちょうせん)し、その仕組みと化学反応(はんのう)に注目しながら、鉄ができるまでの様子を解説(かいせつ)しています。実はたたら製鉄は理科で学習する「還元(かんげん)」を利用しているそうです。
鉄の原料となる砂鉄や鉄鉱石(てっこうせき)はどのように生まれたのでしょう? なんと鉄は宇宙(うちゅう)の始まり、ビッグバンともつながっています。鉄とさまざまなこととの意外な関わりも見えてきますよ。
故郷がつなぐ文化や伝統(でんとう)、人々のこころを大切にしていきたいですね。
(半那(はんな)雅典(まさのり)・島根県立図書館主任(しゅにん)司書)