組み手を交わす参加者=浜田市港町、西川病院
組み手を交わす参加者=浜田市港町、西川病院

 精神医療・西川病院(浜田市港町)では20年以上、柔道による精神の安定や改善を図る「柔道療法」を取り入れている。全国的に珍しく、柔道経験のある医師が発案した。投げたり、投げられたりすることで、体に爽快感や快感が生まれ、リハビリテーションの一助となっているという。

 「こうやって瞬間的に力を入れる」。3月上旬の活動日。院内の体育館に敷かれた畳の上で、西川正医師(76)が柔道着を着た患者や大学生ら約20人に相手を投げる際の構えについて教えを説いた。

組み手を交わす参加者=浜田市港町、西川病院

 柔道療法は西川医師が病院に着任した1975年、28歳の時に一度始めた。中学から大学まで続けた経験を基に4年ほど実施した。当時、元自衛隊員で柔道有段者相手に稽古したところ、当初は統合失調症で自閉状態が続いていたが、1年半の稽古を経て快方に向かった。後にタクシー運転手として社会復帰し、成果が出たという。

 ただ、競技としての柔道だったため、有段者ではないと、けがのリスクが高まり中断。初心者でも受け身や投げ技などがしやすいようメニューを改良し、20年後に再開した。現在は別の作業療法士も指導者に加わり、火、金曜の週2日で1時間程度行い、外来や入院患者ら15人が通う。全国の精神科病院で柔道を取り入れた療法はほとんど例がないという。

構えを教える西川正医師(右)=浜田市港町、西川病院

 この日の活動には柔道部に所属する島根大医学部生7人も実習の一環で参加。患者とともにストレッチを行い、乱取りを行った。

 柔道療法は勝負にこだわらず、自然体で楽しむ。乱取りでは、学生と患者が互いに技が入りやすいよう受け身を取る。投げ技や足技が決まると、周囲から大きな拍手が送られる。

 患者からの評判は良く、「投げることで自信がついた」「ほかのスポーツに比べ体一つで手軽にできる」との意見が相次ぐ。邑南町内の女子中学生(15)は「性格的に合わないと思ったが、やってみると誰もが褒めてくれて気持ちが明るくなった」と感謝する。長かった不登校の時期を乗り越え、4月から広島県内の高校に通う。

ストレッチをする参加者=浜田市港町、西川病院

 同病院によると、うつ状態の人は常に体が緊張し、硬直しやすい。物をつかむにしても余計な力が入り、生活に支障が出るという。柔道着の襟をつかむことで適度な力加減を学べる利点を挙げる。

 西川医師は「自然体のまま胆力が身に付くのが柔道療法」と語る。精神科医を目指す島根大医学部3年の篠田航平さん(31)は「組み手を通じて相手とじかにふれあうことが、患者に良い影響を与えている思う」と振り返った。

(宮廻裕樹)