森茉莉さん(資料)
森茉莉さん(資料)

 芸人のバービーさん(40)は婚姻届を出した2日前、改姓を巡りパートナーと大げんかした。夫の姓を名乗れば管理下に置かれる印象が拭えず、どちらかが我慢する状況が生まれる「(民)法にムカついた」▼小学生の時「全部、草木に関係ある名前ですね」と指摘されてから「笹森花菜」という本名が大好きで、「奇跡のボタニカル(植物由来)ネーム」が戸籍上存在しなくなることも、とても惜しかったという。思い出したのが文豪・森鴎外の長女、森茉莉さん(1903~87年)。2度の離婚を経て、ボタニカルネームのまま50歳を過ぎて本格的な文筆活動を始めた▼幻想的で独特な世界感は独自の生活美学を語ったエッセー『贅沢(ぜいたく)貧乏』が代表する。「超」が付くお嬢さま育ちで生活能力が低く、同書の舞台である東京・世田谷の1人暮らしのアパートは「ごみ屋敷」同然だったようだが、その散らかった部屋が欧州の美術館であるかのように思える文章だ鴎外から継いだ財産は諸事情で使えず、困窮した時代もありながら、ありのままの自分でいる幸福を優先して、精神のための贅沢を追求した生き方を貫いた▼その美意識の根源の一つに、名前があったのではないか。島根県津和野町の森鴎外記念館で14日まで開催されていた企画展「森茉莉」に並ぶ自筆原稿の署名に、人生の大半を、字面の美しいボタニカルネームで過ごしたことの影響を臆測した。(衣)