ジョン・スノウが徹底的な調査を行い、コレラの感染源を突き止めたロンドン・ソーホー地区のパブに集まる人々=2020年7月(資料)
ジョン・スノウが徹底的な調査を行い、コレラの感染源を突き止めたロンドン・ソーホー地区のパブに集まる人々=2020年7月(資料)

 難しいミステリーのようだ。先月、宮城県内で学校給食の牛乳を飲んだ約千人の児童や生徒が、味の違和感や体調不良を訴えた問題。製造工場や学校から回収した牛乳からは、食中毒の原因となる菌などは検出されなかったという。保健所は引き続き調査を続けるようだが、原因を特定する「名探偵」が登場しないものか。

 こちらはまさに探偵のような医師の話。コレラが周期的に流行した19世紀のロンドン。医師のジョン・スノウはコレラ菌が発見される30年前の1854年、名推理を発動し、終息に導いた。

 当時、コレラは汚染された土壌や水から生じる瘴気(しょうき)が原因で、空気感染だと考えられたが、スノウは臨床経験と患者の分布パターンから、水からの経口感染を疑った。短期間に600人の死者を出したソーホー地区で、徹底的に聞き込み調査し、家ごとの死亡者数と、どの家がどの水道を使っているかを地図上に記載。一つの井戸が感染源だと突き止め、終息を早めたとされる。

 後世には「疫学の父」とも呼ばれるが、瘴気説が主流だった当時の医学界は、スノウの「飲み水説」をすんなりとは受け入れず、学問的功績が認められたのは、58年に45歳で亡くなる直前のことだったとか。

 ところでスノウが特定した井戸の跡地近くに「ジョン・スノウ」という店名のパブがあるという。彼の地道な努力の積み重ねに思いをはせながら一杯飲んでみたい。(衣)