衆院予算委の集中審議で質問する立憲民主党の野田佳彦元首相=20日午後
衆院予算委の集中審議で質問する立憲民主党の野田佳彦元首相=20日午後

 心理学を活用した交渉術の一つに「ドアインザフェイス」という手法がある。過大な要求をして相手に断られた後に本命の要求を提案し、相手の承諾を引き出す。例えば車を売ろうとしたとき、まず500万円の高級車を提案し、次に250万円の車を持ちかける。購入側は相手の譲歩に応えようとする心理が芽生え、正常な判断を欠く。一方、露骨な使用は相手に嫌悪感を抱かれる恐れがある▼自民党が政治資金規正法の改正案でこの手を使おうとしている。与党の公明党に同調を拒まれ、野党の反発が明らかな状況であえて自民単独で国会に提出した。党幹部は案修正も「やぶさかではない」と落としどころを探る▼他党が案を出す中で、裏金事件当事者の自民が最も遅く示し、最も緩い内容とした。立憲民主党の野田佳彦元首相は「顔を洗って出直してこいと啖呵(たんか)を切りたくなるくらいだ」と怒りをあらわにする▼自民案は政治資金パーティー券購入者の公開基準を現行の20万円超から10万円超の引き下げにとどめた。ただ少額の不記載を認めれば、小分けにしてごまかす輩(やから)が現れかねない。この期に及んでまだ有権者との乖離(かいり)を自覚していないのかと逆に心配する▼ドアインザフェイスが失敗する例は三つある。(1)最初の要求が過大(2)本命の要求の提示が遅い(3)同じ相手に何度も使う-。貧すれば鈍するではないが、見事なまでに今の自民に合致する。(玉)