万葉集愛好家の大杉耕一さん(89)=神奈川県藤沢市=がこのほど、倉吉市内で講演した。天皇や貴族から農民、防人(さきもり)、遊女まで幅広い階層の人たちの歌を約4500首も収めた万葉集について「日本書紀など国史に記されていない事柄を記した歴史資料だ」と説いた。
古代に天皇の命令で作られた国史には、天皇や貴族に関する事柄しか書かれていない。鳥取市ゆかりの万葉歌人・大伴家持が編さんに携わったとされる万葉集について、大杉さんは「歌集であると同時に歌集のふりをした歴史資料。国史に記されない歴史をカバーし、後世の史家に託したのではないか」と分析した。
ともに万葉歌人で倉吉市ゆかりの山上憶良や大伴旅人(家持の父)が有力貴族・藤原氏によって左遷させられた人事が国史には書かれず、万葉集には記してあると例示した。文武の要職にあった2人の左遷後に、藤原氏のライバルの皇族・長屋王が謀反をたくらんだとして自殺に追い込まれる事件が起き、万葉集には、藤原氏のたくらみに乗せられた聖武天皇への恨み言の歌があることも紹介した。
講演会は、憶良を顕彰する「山上憶良の会」(福井伸一郎会長)が主催し、約30人が聴いた。
(桝井映志)