「話すことは、放す(離す)こと」といわれる。言葉にすることで悩みやストレスを外に吐き出し、考えの整理や自らの気付きにつながる。それを手伝うのが、相手の話にしっかりと耳を傾け、注意深く聴く「傾聴」。話す方は聴いてもらうだけで気持ちが少し楽になる。
医療や福祉分野が中心だった傾聴は今では、部下に対する上司の応対などビジネスの世界でも重要視されている。共感、理解しようとすること、評価をせずありのままに聴く姿勢が基本という。ハラスメントが問題になる中、相手の身になってみる姿勢は大切だ。
伝えること、受け止めることから、人のつながりは生まれる。ところが、信頼関係をないがしろにする行為が目につく。先月あった水俣病の患者・被害者と環境相との懇談で話の途中にマイクが切られたように、思いを込めた被害者側の発言を聴こうともしない態度は言語道断だ。
こちらは聞き流されたような気持ちになる。自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案。「政策活動費の領収書の10年後公開」などが盛り込まれ、思い切った改革を期待した国民の声を真正面から受け止めた結果なのか、と疑念が湧く。
岸田政権では初の党首討論があす開催される。主要テーマは裏金事件を巡る政治改革。「聞く力」を掲げる首相が傾聴を怠り、聴いたふりをしてやり過ごそうとする姿勢では、国民にそっぽを向かれる。(彦)