「番狂わせ」という表現は失礼だろう。32年ぶりに夏の甲子園に出場した島根代表の大社が初戦で、優勝候補の一角・報徳学園(兵庫)を3-1で破ってみせた。夏の甲子園での勝利は実に63年ぶりという。強豪を下したことも合わせ、歴史的勝利だ▼相手は昨年に続いて今春の選抜大会でも準優勝を飾り、今夏は頂点を狙った「横綱」。事前の評判では「平幕」扱いだった大社は、初回の先制攻撃で勢いづくと、その後はがっぷり四つに組み、最後は反撃をしのいで寄り切った▼とはいえ、「逆転の報徳」の異名を持つ横綱の終盤の反撃に、嫌な記憶がよみがえったオールドファンもいたのではないか。1976(昭和51)年の選抜大会。大社は七回表まで前年夏の優勝校・習志野(千葉)に7-0と大量リードしていた。ところがその裏に1点返されると、八回には連打に失策も絡み、まさかの7失点。7-8で逆転負けを喫した▼だが、今年のチームは精神的にもたくましいようだ。エース左腕の馬庭優太投手は九回表の打席で安打を放った際に右の脇腹を痛めたが、続投を志願。137球の熱投で勝利を呼び込んだ▼試合後「選手の力は無限大だと思う」と驚きを口にした石飛文太監督に、「ベスト8が目標だが、その上に行けるよう力を付けたい」と意気込んだ馬庭投手。開場100年を迎えた聖地・甲子園で、大社ナインはどこまで力を伸ばすのだろう。(健)