終戦の日の様子を描いた、やなせたかしさんの絵
終戦の日の様子を描いた、やなせたかしさんの絵

 戦時中の日本で広まった標語「欲しがりません勝つまでは」は、戦争の長期化で食料が不足する中、倹約の精神を国民に植え付けた。それが求められたのは戦地の兵士も同じ。中国に出兵した漫画家のやなせたかしさん(1919~2013年)は「戦争はとにかく腹が減る。人間一番つらいのはおなかが減っていることなんだ」と振り返っていた。

 終戦が伝わり「勝つまでは」のたがが外れた兵士たちは「欲しい」ままに極端な行動を取った。敵軍に奪われないよう、ためていた食料に全員が群がったのだ。79年前のきょうのこと。

 やなせさんはその時の様子を一枚の絵に書き残していた。上海近くの農村でアヒルの群れがにぎやかに泳ぐ横で兵士7人が走る姿。満腹なのに残りを食べ尽くすため、おなかを減らそうと走ったのだ。戦争の愚かさに対する風刺画にも見える。

 こうした体験がやなせさんの作品の根底にある。代表作『アンパンマン』の主人公は、あんパンでできた自分の顔を食べさせる。敵を倒すのではなく、分け与えることで飢えをなくす唯一無二のヒーロー。まるで平和の象徴のようだ。

 やなせさんは戦地で飢えに苦しんだのに加え、2歳下の弟を戦争で亡くした。だからだろう。自著『やなせたかし 明日をひらく言葉』にこう記した。「この社会で一番憎悪すべきものは戦争だ。絶対にしてはいけない」。終戦記念日に肝に銘じたい。(健)