21年前、格安航空券で安宿に泊まる個人旅行でベトナムへ出かけた。インターネットでの手配は主流ではなく、中部ダナンからホーチミンへの国内線を現地の宿から電話で予約。片言の英語でやりとりした不安が的中した▼搭乗手続きをすると予約はできておらず、空席もないという。旅程最終日、この便を逃すと帰国もずれる。半泣きでごねるも首を横に振る地上職員。万事休すと思いきや「ファーストクラスなら空きがある」。最初から提案してくれよと思ったが、着古したTシャツとリュック姿に、そんな余裕はないと判断されたのも仕方なかったか。覚悟した出費は、物価安で航空券代プラス3700円で済んだ▼旅のトラブルは思い出の一つ。先月、東海道新幹線が浜松―名古屋間の事故で終日運転を見合わせ、25万人が足止めされた事案。ニュース番組でカナダ人の男性客は、リポーターの「災難でしたね」との言葉に「そんなことはない。駅員みんなが協力してチケットを手配し直してくれた。それは素晴らしいこと」と笑顔を見せた▼何を災難とし福とするかは心持ち次第だ。旅程は狂っただろうが、トラブルの中で良いことに目を向ける彼の姿勢に幸福に生きる近道を教わった▼月遅れ盆があす明け、夏も終わりに近づく。旅に出なくとも、旅人の思い出に関わることがあるかもしれない。「素晴らしい」と思ってもらえる地でありたい。(衣)