「もう10年もたったのか」。それが第一印象だった。77人が亡くなった2014年8月20日の広島市の土砂災害から10年が過ぎた。甚大な被害が出た安佐南区は、広島で勤務していた20年ほど前に家族で暮らした場所。見慣れた風景の変わり果てた姿に、言葉を失った。
本紙でも各地で行われた慰霊式の様子を掲載した。「8・20」の形に並べられた紙灯籠には「災害のない未来をすごしたい」「安心安全住みよい街」といった安全を望むメッセージがいくつも書かれていた。被害の衝撃が大きかった証しだ。
「1日も10年も思いは変わらない。今も会いたいし、悔しいし、寂しい」。次女夫婦を亡くした香川県の男性(61)のコメントに胸が締め付けられた。大事な人を失った遺族にとって、10年の節目は何の慰めにもならない。傍観者だった自らの第一印象を恥じた。
国土交通省によると、都道府県別の土砂災害警戒区域の指定数(6月30日時点)は、広島が4万7821カ所で全国最多。3万2212カ所の島根は3番目に多いという。土砂災害は決して人ごとではない。現に先月の記録的大雨で出雲市大社町の県道の一部が崩落。日御碕地区が一時孤立状態に陥った。
広島市では砂防ダムの建設や斜面の崩壊を防ぐ補強工事が完了。被害が大きかった安佐南区八木地区に昨年9月、豪雨災害伝承館が開館した。被害を風化させないことも防災対策の一つだ。(健)