歴史的な円安ドル高水準に揺れる外国為替市場の円相場。過度な円安は輸入価格の上昇を招いて、企業業績や家計を圧迫する。何事もバランスが肝心だ。是正に向け政府、日銀は6月下旬からの1カ月で総額5兆5千億円余りの円買いドル売りの介入に踏み切った。4~5月実施分と合わせ、総額は計15兆3千億円に上る。
ただ上には上がいる。2007年から3期12年間、島根県知事を務めた溝口善兵衛氏だ。知事就任前、財務省財務官だった03年当時は、現在とは逆に行き過ぎた円高が問題になっていた。04年にかけて約35兆円に上る過去最大規模の円売りドル買い介入の指揮を執り、円高不況に歯止めをかけたことで、海外では「ミスター・ドル」の異名で呼ばれた。
今回の大規模介入を主導したのは7月末で財務官を退任し、現在は内閣官房参与の神田真人氏(59)。決断の裏でかつての上司の顔を思い浮かべていたかもしれない。
後進に影響を与えたであろう「ミスター・ドル」が78歳で亡くなった。功績や人柄は評伝に譲るが、JR三江線の廃止問題を巡り、JR西日本と沿線自治体の間で「中立」の立場を貫いた際は主体性が見えないと批判を浴びた。バランスに配慮し過ぎたのか。
知事を退任後は「ゆっくりする」と東京都内で生活し、表舞台に出ることはなかった。昨今の円安や、人口減少に立ち向かう島根県の政策をどう見ていたのだろう。(健)