民法750条の夫婦の氏について定めた条文
民法750条の夫婦の氏について定めた条文

 結婚して姓を変えた。さほどの抵抗がなく移行できたのは、字面も読み方も旧姓とほとんど変わらなかったことが大きい。もちろん夫婦で話し合い、納得した上での改姓だ▼そもそも誰もが名字を公に名乗るようになったのは1870(明治3)年9月19日から。太政官布告「平民苗字(みょうじ)許可令」で農民や町人にも姓の使用が許された。だが国民は望んでいたわけではなく、税金を多く取られると警戒して普及しなかったという。それもそのはず。政府が徴税や徴兵など国民を把握するために戸籍制度と共に導入を図ったもので、民の感度は正しかったと言える▼そこで政府は75年の「平民苗字必称義務令」で使用を義務化し、76年に妻の姓は「所生ノ氏」(実家の姓)を用いることを決めた。いわゆる夫婦別姓制。ただ実態と合わないとして、従わない民が多かったという▼夫婦同姓確立の転機は98年の明治民法施行。男性優位の戸主が統率する「家制度」で夫婦は同じ姓を名乗ることになった。家制度は廃止されたが、同姓制は今も続く▼許可令から154年。夫婦が望めばそれぞれ結婚前の姓を使える「選択的夫婦別姓」導入が自民党総裁選で争点の一つになっている。「強制ではなく、夫婦で同じ姓を名乗りたい人に不利益はない」という賛成派もいれば「家族の一体感を損なう」という反対派もいる。簡単に答えは出ず、「苗字の日」にその是非を考える。(衣)