米国で転職したホワイトカラーに現在の職に就いたきっかけを聞いたところ、つながりの深い人より、薄い人から紹介された情報を基にした人が大多数だった。友人や同僚は現実的な転職先を提案したのに対し、関係の薄い人はその人の適性を見いだし、思いがけない情報をもたらしたという。社会学者のマーク・グラノヴェッター氏が提唱した「弱い紐帯(ちゅうたい)」理論である
残念ながら、弱い紐帯で悪事を働く不届き者が社会にはびこっている。匿名・流動型犯罪グループ、略して「トクリュウ」である。組織を持たず、秘匿性が高いSNSを介して離合集散を繰り返す。闇バイトで募った実行犯は使い捨てられ、本丸は見えない
強盗や特殊詐欺にとどまらず、違法カジノや悪質ホストクラブ、果てはサケの密漁に及ぶ。島根県内でも特殊詐欺事件で逮捕されたベトナム国籍の男が「SNSで報酬がもらえると聞いた」と供述しているという
「ルフィ」らのように国外に拠点を移す動きも出ている。露木康浩警察庁長官は詐欺対策の国際会議で「スマホ1台で国境を越えて犯罪を敢行できるが、共に闘うことで困難を克服できると確信している」と連帯を呼びかけた
狼藉(ろうぜき)を尽くすトクリュウには警察のような「強い紐帯」で対抗するしかあるまい。カネの流れをつかみ、一網打尽に摘発する。「検挙に勝る防犯なし」という言い習わしが重みを増している。(玉)